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憎悪の歴史

今から10年以上前、世界銀行グループで投資官として働いていた頃、ヨルダンの製薬会社へのプロジェクトファイナンスの案件でヨルダンに二週間ほど滞在したことがある。それまで中東の人々との接点はわずかに留学時代のイスラエル人の友人ぐらいであったが、改めてアンマンで出会った人々の優秀さや人懐っこさに、目からウロコの連続であった。とりわけ最も遠い存在だったアラブ人にとても親近感を覚えた。

ちょうどその頃、中東に関する英書を一冊読んだ。From Beirut to Jerusalem というタイトルの本だったと思う。読み応えのある面白い内容だったと記憶しているが、その冒頭に出てきた一節を今でも覚えている。「ユダヤ人に、なぜそのアラブ人を殺すのかと問えば、それはそのアラブ人に自分の親を殺されたからだと答える。そのアラブ人になぜそのユダヤ人を殺したのかと問えば、それはそのユダヤ人が自分の親を殺されたからだと答える。そうやってずっとさかのぼって行くと、そもそも一体なぜ殺し合いの歴史が始まったのか、今となっては誰もよく分からない。」

イスラエルがまたハマスの最高指導者を暗殺した。とても常識では考えられない蛮行である。米国ブッシュ大統領のイスラエル支援の姿勢が大きく影響したと言われているが、中東の情勢は危機的と言って良い。イラクに大儀なき戦いを始めた米国と、ハマスに危険人物として暗殺を行ったイスラエルと、この二つがダブって見える。イラクでいかに人道復興支援をやろうとも、アラブ世界全体での反米・反ユダヤの波がますます高まることはもはや避けがたい。世界の最大のリスクファクターである。

選挙の前、あるマスコミが行った米国によるイラク攻撃のアンケートに対して、私は攻撃は正しくないというスタンスから「憎悪の歴史」を自らが始めてはならない、という意見を述べた。残念ながら憎悪の歴史はイラクから中東全体へと拡がってしまった。


 
   
2004年4月19日
田嶋 要
 
 


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